デュシャンのレディ・メイドにはすべてではないが図形的な、あるいは形体的な縛りがあるように思われる。そのひとつの考えは東野芳明が紹介しているリチャード・ハミルトンの述べているシンメトリーの装飾芸術からの解放である(注1)。大量生産品の99パーセントがシンメトリーであり、デュシャンは非対称(アンシンメトリー)の環境への反作用としてこれ(ここではビン乾燥器―引用者注)を選んだとしている。つまり、美術にシンメトリーを持ちこんだということだろう。
このことからデュシャンの作品にシンメトリーを見つけるのは容易なことだ。
「自転車の車輪」のスツールの上の車輪は丸、「ビン乾燥器」は円錐形と見なすことができると思う。「フレッシュ・ウィドゥー」は長方形である。
そして、これらを2つの図版をヒントに考えた。ひとつはエティエンヌ=ジュール・マレーの垂直軸で回転する金属の輪の図版(注2)(図1)である。ふたつめはスツールの座面のうえでフォークごと回転している車輪の図版(注3)(図2)である。

図1
図2
この二つの図版をとりあげるのは、デュシャンが「Tu m’(図3)」の左半分(図4)のシルエットについて見えるものがあるからである。「Tu m’」 の左半分を立ててみよう。そうするとコルクスクリューは車輪が垂直軸で回転していることを暗示しているように思われる。とすれば、これは球体ということになる。

図3

図4
図5
さらに、中央から右半分(図5)では、瓶ブラシは描かれていない瓶を想起させ、つまり、円筒形が隠されている。(瓶と瓶ブラシの性的な連想については後に述べる)
シルエットの帽子掛けは円錐形といえる。
また、デュシャンの「私はいつも円を、回転するものを求めていた(注4)」にならって、レディ・メイドを台座に据えて回転させるという方法もある。ここでもヒントになった作品がある。田淵裕一 「ビンカケにかけてなんととく?(図6、注5)」である。
そうすると、これは繰り返しであるが「自転車の車輪(図7、注6)」の上部は球形となる。また、「パリの空気50cc(図8)」も球形と見てもよいだろう。
「ビン乾燥器(図9)」、「帽子掛け(図10)」は回転しなくても円錐形であるが、「泉(図11)」も一番高いところを回転軸に合わせれば、円錐形に似た形となるだろう。
「フレッシュ・ウィドゥー(図12)」、「オーステルリッツの喧騒(図13)」を台座に据えて回転させれば円筒形になる。
こうして、「第1章、1」で述べた「大ガラス・男性図」に見られた球形、円錐形、円筒形はレディ・メイドにも「Tu m’」(円筒形は隠れているが)にもあると言ってよいだろう。

図6

図7
図8

図9
図10
図11

図12
図13
- 図3 イェール大学アート・ギャラリー 図12 ニューヨーク近代美術館
図13 Staatsglalerie,Stuttgart,Germany - 注1 「マルセル・デュシャン」 東野芳明 P-254 原文はRichard Hamilton “The almost complete works of Marcel Duchamp” Arts Council of Great Britain 1966 P-52
- 注2 ジャン・クレールの“Sur Marcel Duchamp et la fin de L‘art” Gallimard 2000 P-274の図を参考にした。
- 注3 Juan Antonio Ramírezの“Duchamp love and death,even”Reaktion Books 1998 P-30の図を参考にした。
- 注4 「マルセル・デュシャン」 カルヴィン・トムキンズ P-128
- 注5 「田淵裕一 写真展」 ギャラリー オキュルス 2009年 Google画像検索 「デュシャン ビン乾燥器」で見つけました。
- 注6 「自転車の車輪」はいくつかのバージョンがあり、初期のものは車輪を支えるフォークがスツールの水平な座面にたいして傾いていたり、曲がっていたりしている。最晩年のシュバルツのバージョンではフォークはほぼ垂直である。考えをはっきり伝えるためにそうしたのではないだろうか。
